かもめの相続コラム:相続税の物納

価値ある不動産を次世代に残す、相続税の物納

■優良な不動産を次世代に

相続税納税対象者の財産の7割は不動産。

相続税を金銭だけで納付できない場合は、不動産を売却しその代金で納付するケースが多くなると思います。

相続税には納付期限があるので、通常は、どうしても売却しやすい不動産=人気のある不動産から売却することになります。

そうすると、次世代には、人気のない=資産価値の低い不動産だけが残ってしまいます。

数回の相続により、昔からの大地主さんも「残ったのは売るに売れない不動産だけ」という話もよく耳にします。

■相続税の物納

そのような事態を避け、できるだけ「価値ある不動産」を次世代に残すために有効な方法の一つとして、相続税の物納が注目されています。

相続税は金銭で納付することが原則ですが、不動産などの「物」をそのまま納税に充てる「物納」という制度もあります。

ご存知のように、実際の不動産の時価「売却価格」と相続税評価額には、物件によってはかなりの開きがあり、相続税評価額は同等の不動産でも、実際には売却価格の低い=人気のない不動産を「物納」に充てることができれば、そのぶんトクになるわけです。

■物納制度の概要

国税は、金銭で納付することが原則ですが、相続税については、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、納税者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として一定の相続財産による物納が認められています。

次に掲げるすべての要件を満たしている場合に、物納の許可を受けることができます。

(1) 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること。

(2) 物納申請財産は、納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった相続財産のうち、次に掲げる財産及び順位で、その所在が日本国内にあること。

  • 第1順位 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等
  • 第2順位 非上場株式等
  • 第3順位 動産

【管理処分不適格財産】

次に掲げるような財産は、物納に不適格な財産となります。

イ 不動産

(イ) 担保権が設定されていることその他これに準ずる事情がある不動産

(ロ) 権利の帰属について争いがある不動産

(ハ) 境界が明らかでない土地

(ニ) 隣接する不動産の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の使用ができないと見込まれる不動産

(ホ) 他の土地に囲まれて公道に通じない土地で民法第210条の規定による通行権の内容が明確でないもの

(ヘ) 借地権の目的となっている土地で、その借地権を有する者が不明であることその他これに類する事情があるもの

(ト) 他の不動産(他の不動産の上に存する権利を含みます。)と社会通念上一体として利用されている不動産若しくは利用されるべき不動産又は二以上の者の共有に属する不動産

(チ) 耐用年数(所得税法の規定に基づいて定められている耐用年数をいいます。)を経過している建物(通常の使用ができるものを除きます。)

(リ) 敷金の返還に係る債務その他の債務を国が負担することとなる不動産

(ヌ) その管理又は処分を行うために要する費用の額がその収納価額と比較して過大となると見込まれる不動産

(ル) 公の秩序または善良の風俗を害するおそれのある目的に使用されている不動産その他社会通念上適切でないと認められる目的に使用されている不動産

(ヲ) 引渡しに際して通常必要とされる行為がされていない不動産

(ワ) 地上権、永小作権、賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利が設定されている不動産で次

掲げる者がその権利を有しているもの

1 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(以下「暴力団員等」という。)

2 暴力団員等によりその事業活動を支配されている者

3 法人で暴力団員等を役員等(取締役、執行役、会計参与、監査役、理事及び監事並びにこれら以外の者で当該法人の経営に従事している者並びに支配人をいう。)とするもの

【物納の要件・要約】

長文で難解に感じられますが、それほど特別なことではありません。

  • 所有者が分からない不動産はダメ
  • 担保権のついた不動産はダメ
  • 境界が明らかでない土地はダメ

など通常の売買取引の場合でも買主の求める要件です。

反対に、これらの要件がクリアできていれば、借地の底地や不整形地など、一般市場では人気のない不動産でも物納に充てることができます。

以上のように、物納制度を上手に利用することができれば、人気のない不動産を手放し、価値ある不動産を次世代に残すことができます。

このようなご事情に当てはまる方は、相続財産承継プランの一つとして、一度、検討してみてはいかがでしょうか。

2017年9月

司法書士 日永田一憲

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