家族信託は「終わるとき」が難しい? 委託者が亡くなった後の不動産登記

家族信託終了
家族信託は、認知症などによって自分で財産を管理することが難しくなった場合に備え、家族に財産の管理を託しておく仕組みです。
 
特に、自宅や賃貸不動産などを所有している方の認知症対策としてよく利用されます。
 
当事務所のある鎌倉市でも、特にここ数年家族信託に関する問い合わせが多くなっています。
 
家族信託を始める際には、「誰を受託者にするか」「どの財産を信託するか」といった点に目が向きがちです。
 
しかし、司法書士として実際に信託の登記に携わっていると、もう一つ重要な問題があることに気付きます。
 
それは、「家族信託をどのように終わらせるか」という問題です。
 
特に信託財産に不動産が含まれている場合、委託者兼受益者が亡くなった後にも不動産登記の手続きが残ります。
 
今回は、実際の登記実務をもとに、家族信託終了時の不動産登記について、司法書士が少し専門的なところまで解説します。
 
 
家族信託・事例紹介

分かりやすくするため、次のような家族信託を考えてみましょう。

父Aが自宅不動産を所有しています。

将来、認知症などによって自宅の管理や売却ができなくなることに備えて、長男Bとの間で家族信託契約を締結しました。

信託関係は次のとおりです。

* 委託者 父A

* 受益者 父A

* 受託者 長男B

* 信託財産 父A所有の自宅不動産

いわゆる「自益信託」と呼ばれる形です。

信託契約後、不動産については父Aから受託者である長男Bへの所有権移転登記と、信託の登記を行います(不動産登記法第98条)。

もっとも、長男Bが自分の財産として不動産を取得するわけではありません。

登記上の所有者は受託者Bとなりますが、その不動産はB自身の財産とは区別された「信託財産」として管理されます。

契約内容:父の死亡によって信託を終了させる

今回の信託契約では、さらに次のように定めているものとします。

「委託者兼受益者Aが死亡したときに信託を終了する」

信託は、信託行為において定めた事由が生じたことによって終了します(信託法第163条第9号)。

そして、信託終了後の残余財産について、

「残余財産の帰属権利者を受託者Bとする」

と定めています。

信託法では、信託行為に残余財産の帰属を受けるべき者を定めることができ、この者を「帰属権利者」といいます(信託法第182条第1項第2号)。

つまり、父Aが存命中は長男Bが受託者として不動産を管理し、父Aが死亡したら信託を終了させ、最終的にその不動産を長男Bが取得するという設計です。

家族信託では、このように「信託をいつ終了させるのか」だけでなく、「終了したときに残った財産を誰に帰属させるのか」まで定めておくことが重要です。

 
 
委託者が死亡するとどうなる?

父Aが死亡しました。

一般的な相続であれば、父A名義の不動産について相続人への相続登記を行うことになります。

しかし、今回の不動産はすでに信託されています。

登記上も、

「所有者 受託者B」

となっています。

そのため、通常の意味での「AからBへの相続登記」を行うわけではありません。

ここが家族信託と通常の相続との大きな違いです。

今回の契約では「Aの死亡によって信託が終了する」と定めていますので、Aの死亡によって信託は終了します(信託法第163条第9号)。

ただし、法律上は、信託が終了した瞬間にすべての法律関係が消えてしまうわけではありません。

信託法では、信託が終了した場合でも、清算が結了するまではその信託はなお存続するものとみなされています(信託法第176条)。

その間に債務の弁済など必要な清算手続きを行い、最終的に残った信託財産を、契約で指定された帰属権利者に引き渡します(信託法第177条以下)。

今回のケースでは、その帰属権利者が長男Bです。

 
 
不動産登記申請

ここに少し難しい問題があります。

今回のケースでは、

受託者=B

帰属権利者=B

です。

つまり、登記名義人そのものは信託終了の前後でBのままです。

しかし、不動産の法的な性質が変わります。

信託中は、

「受託者Bが管理する信託財産」

でした。

それが信託終了後には、

「B自身の固有財産」

となります。

したがって、単に信託の登記を抹消すればよいというわけではなく、信託財産から受託者の固有財産となったことを反映させる不動産登記が必要になります。

不動産登記法では、信託財産に属する不動産が受託者の固有財産となった場合について、受託者を登記権利者、受益者を登記義務者とする特別な規定を設けています(不動産登記法第104条の2第2項)。

また、信託財産に属しないこととなった不動産について権利の変更の登記をするときは、信託の登記の抹消も併せて申請することになります(不動産登記法第104条)。

そして、この場面で登記実務上少し興味深い問題が生じることがあります。

父Aが死亡する直前まで、受益者はAです。

ところが、信託法では、信託終了後の「帰属権利者」は、信託の清算中は受益者とみなすこととされています(信託法第183条第6項)。

したがって今回の場合、BはAから受益権を相続して新しい受益者になったわけではありませんが、帰属権利者として、清算中は法律上「受益者」として扱われることになります。

ここが少し分かりにくいところです。

 

 

受益者の変更登記は必要?

この問題が、不動産登記の実務にも影響します。

信託の登記事項に変更が生じた場合、原則として受託者は信託の変更の登記を申請することになります(不動産登記法第103条)。

一方、先ほど説明したとおり、信託財産である不動産を受託者の固有財産とする場合には、受託者を登記権利者、受益者を登記義務者とする仕組みになっています(不動産登記法第104条の2第2項)。

ところが、登記記録上の信託目録を見ると、受益者として記載されているのは死亡した父Aのままです。

そこで、

「固有財産とする登記の前に、帰属権利者Bを受益者として信託目録に反映させる変更登記が必要ではないか」**

という問題が出てきます。

ただし、契約上、Aの死亡によって信託は終了しています。

そしてBは「Aの次の受益者」として指定されているのではなく、「信託終了後の帰属権利者」として指定されています(信託法第182条第1項第2号)。

つまり、

A死亡 → AからBへ受益者変更 → 信託終了

という契約ではありません。

正確には、

A死亡 → 信託終了 → Bが帰属権利者となる → 清算中はBを受益者とみなす

という法律関係です(信託法第163条第9号、第182条第1項第2号、第183条第6項)。

そのため、「AからBへの受益者変更があった」と単純に説明することには、少し違和感があります。

一方で、不動産登記制度の側から見ると、最終的にBの固有財産とする登記を行う際、信託目録にもBが受益者として反映されていた方が、登記記録として分かりやすいという考え方もあります。

このあたりは、信託法上の実体関係と、不動産登記制度上の記録方法が完全には噛み合っていない部分といえるかもしれません。

実務上、受益者に関する変更登記を経ずに固有財産とする登記が処理されることもありますが、法務局から受益者に関する変更登記を求められることもあります。

そのため、実際に申請する際には、信託契約の内容や管轄法務局の取扱いを確認しながら進めることが重要です。

 
 
受託者の「固有財産」になるとは?

ここで、「固有財産」という言葉についても説明しておきましょう。

家族信託では、受託者自身がもともと所有している財産と、信託によって管理している財産は明確に区別されます。

長男B名義になっているからといって、信託中の不動産をBが自由に自分のために処分できるわけではありません。

あくまで受託者として、信託契約の目的に従って管理する財産です。

ところが信託が終了し、Bが帰属権利者として不動産を取得すると、その不動産は信託財産ではなくなります。

そこで初めて、

「受託者Bが管理する信託財産」から「B自身の固有財産」へ

と性質が変わるわけです。

登記名義人はどちらもBなので、一見すると何も変わっていないように見えます。

しかし法律上は、

Bという同じ人物の中で、「信託財産」から「固有財産」へ財産の帰属区分が変わった

という重要な変化が生じています。

そのため、不動産登記においても、この変化を正しく登記記録に反映させる必要があります(不動産登記法第104条、第104条の2)。

 
 
まとめ:家族信託は「作って終わり」ではありません

家族信託を検討するとき、多くの方が気にされるのは、

「認知症になったら不動産を売却できるのか」

「誰を受託者にすればよいのか」

「信託すると不動産の名義はどうなるのか」

といった、信託を始めるときの問題です。

もちろん、これらは非常に重要です。

しかし実務上は、もう一つ大切な視点があります。

「この信託を最後にどう終わらせるのか」

という視点です。

委託者兼受益者が死亡した場合に信託を終了させるのか、それとも次の受益者に受益権を承継させて信託を継続するのか。

終了するのであれば、残った財産を誰に帰属させるのか。

そして不動産がある場合、その内容を最終的にどのような登記によって実現するのか。

ここまで考えて初めて、一つの家族信託が完結します。

特に不動産を信託する場合には、信託契約の内容と不動産登記が密接に関係します。

契約書を作成した時点では問題がないように見えても、何年、あるいは何十年か後に信託が終了した際、その条項を実際の登記手続きに落とし込まなければなりません。

家族信託は「始め方」だけでなく、「終わり方」まで設計することが大切です。

不動産を含む家族信託を検討するときは、将来の相続だけでなく、信託終了後の不動産登記まで見据えて契約内容を検討することをおすすめします。

かもめ総合司法書士事務所では、鎌倉市を中心に家族信託のご相談をお受けしています。

将来に備え、家族信託をご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。

 

2026年9月

司法書士 日永田一憲

湘南海岸富士山・かもめ総合司法書士事務所
湘南海岸夏・かもめ総合司法書士事務所

未来に向け、安心できる相続を

かもめ総合司法書士事務所
相続専門の司法書士,日永田一憲

法務大臣認定司法書士
日永田一憲

突然の相続で何から手をつけたらよいか分からない、、そんなときは、司法書士の無料相談をご利用ください

かもめ総合司法書士事務所・鎌倉

0467-39-6827

神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-9-62フォーラムビル2階、鎌倉駅から0.6キロ、若宮大路沿い

営業時間:平日10時~17時半(事前予約で20時までご相談承ります)

相続や遺言、よくあるご質問

相続や遺言の相談は無料ですか?

初回のご相談は無料で承ります
お気軽にお問い合わせください

見積りをお願いできますか?

報酬及び諸費用について、
事前に料金表をご提示します

相続登記は全国対応ですか?

全国どこの法務局でも登記可能
遠方でもOKです

かもめ総合司法書士事務所鎌倉市由比ガ浜

法律サービスを通し安心と幸せを

かもめ総合司法書士事務所では、相続手続きをスムーズに行うことで、相続人の方のご負担を軽減し、これからのご家族の安心と幸せをサポートすることを使命と考え、日々、業務に取り組んでおります

〒248-0014
鎌倉市由比ガ浜2-9-62
フォーラムビル2階
かもめ総合司法書士事務所

0467-39-6827

事務所紹介

相続専門の司法書士,日永田一憲

かもめ総合司法書士事務所
代表者
司法書士・行政書士 
日永田一憲(ひえだかずのり)
昭和44年生れ
鎌倉市在住

当事務所では、相続手続きをスムーズに行うことで、相続人の方のご負担を軽減し、これからのご家族の安心と幸せをサポートすることを使命と考え、日々、業務に取り組んでおります

新着情報

2026年9月18日
相続コラム記事追加しました
2026年2月26日
依頼者様の声更新しました
0467-39-6827に電話する