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鎌倉・相続相談ひろば
かもめ総合司法書士事務所<鎌倉市由比ガ浜>
現代の日本には、江戸時代の「勘当」のように親子の縁を法的に断つ制度は存在しません。
しかし、特定の相続人から相続権を奪う「相続人の廃除」という制度があります。
【民法第892条】
内容:遺留分を有する推定相続人(相続開始時に相続人となるべき者)が、被相続人に対して虐待や重大な侮辱を行った場合、またはその他の著しい非行があった場合、被相続人は家庭裁判所にその相続人の廃除を請求できます。
【民法第893条】
内容:被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を示した場合、遺言執行者は、遺言が効力を生じた後、速やかに家庭裁判所に廃除の申立てを行わなければなりません。
相続権は法定相続人に当然に発生しますが、著しい非行のあった相続人については、その権利を失わせることができます。
たとえば、被相続人に対して虐待や重大な侮辱を行った場合、または著しい非行を繰り返した場合などが対象です。
ただし、単なる不仲や性格の不一致といった理由では廃除できません。
法律で厳格に定められた要件に該当する場合にのみ、家庭裁判所の審判によって認められます。
相続権を失う場合には、「廃除」と「欠格」という二つの制度がありますが、性質は大きく異なります。
欠格とは、一定の重大な犯罪行為などがあった場合に、自動的に相続権を失う制度です。
一方で、廃除は被相続人または遺言執行者が家庭裁判所に申立てを行う必要があります。
つまり、欠格は「自動的に発生」するのに対し、廃除は「被相続人の意思に基づいて行われる」点が異なります。
相続人の廃除は、被相続人の生前または死後(遺言による場合)のいずれでも行うことができます。
手続きの流れは以下の通りです。
【生前に廃除する場合】
【遺言によって廃除する場合】
このように、廃除は家庭裁判所の審判によってのみ成立します。
遺言書などに「息子○○とは縁を切る」と書いても、それだけでは法的効力を持ちません。
実際に「廃除の申立て」はどのくらい行われているのでしょうか。
令和5年度の司法統計によると、相続人の廃除に関する申立件数は、わずか353件、既済は222件、そのうち認容は52件でした。
このため、廃除の申立てを行っても、実際に認められるのは全体の2~3割程度にとどまるのが現状です。
認められるケースの多くは、被相続人への暴力や虐待が長期間続いた場合、または財産を不正に処分したり、生活を脅かすほどの迷惑行為を行った場合など、明確な証拠が存在する事案です。
逆に、感情的な対立や一時的な口論だけでは、裁判所が廃除を認めることはほとんどありません。
廃除が認められる典型的な行為としては、次のようなものが挙げられます。
たとえば、高齢の親に対して日常的に暴力をふるったり、介護を放棄したりするケースは典型的な廃除事由です。
また、被相続人の財産を勝手に売却したり、名義変更を行った場合も、廃除の対象となり得ます。
ただし、廃除は家族関係を断絶させるほど重大な制度のため、一時的な口論や小さなトラブルでは認められません。
家庭裁判所は、被相続人と相続人の関係や過去の経緯、反省の有無などを総合的に判断します。
相続人が廃除されると、その人は相続人としての地位を最初から持たなかったものとみなされ、遺留分も認められません。
つまり、相続分を一切受け取ることができなくなります。
ただし、廃除された相続人にも救済の道があります。
それが「廃除の取消し」です。
被相続人が廃除した後に関係が修復した場合、被相続人の意思によって廃除を取り消すことができます。
たとえば、廃除した相続人が真摯に反省し、被相続人が「許す」と判断したときは、家庭裁判所に「取消しの審判」を求めることで、再び相続権を回復できます。
また、廃除された相続人に子がいる場合、その子は代襲相続によって被相続人の遺産を受け継ぐことができます。
廃除を検討する際は、慎重な判断と適正な手続きが求められます。
感情的な衝突だけで廃除を申し立てても、裁判所で認められる可能性は低いからです。
まずは、廃除事由となる行為が法律上の要件に該当するかを確認し、録音、診断書、日記、目撃者の証言などの証拠を整えることが大切です。
必要に応じて、司法書士や弁護士に相談し、家庭裁判所での手続きの進め方、必要書類、証拠のまとめ方などを事前に整理しておきましょう。
特に遺言による廃除を希望する場合は、遺言書の作成方法を誤ると効力が失われるおそれがあります。
そのため、司法書士、弁護士などの専門家に相談することが望ましいです。
相続人の廃除は、被相続人の強い意思を法的に反映できる制度ですが、手続きは複雑で厳格です。
また、申立てをしても、廃除が認められる確率は2~3割と決して高くはありません。
特定の相続人に財産を渡したくない場合でも、感情的にならず、廃除以外の方法も含めて慎重に検討することが重要です。
司法書士や弁護士に相談することで、遺言や生前贈与、家族信託等を含めた最適な方法を提案してもらえるでしょう。
2025年11月
司法書士 日永田一憲
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